2 自由主義と国民主義の進展

6 ロシアの改革

 ロシアではアレクサンドル1世の死後、弟のニコライ1世(1796〜1855、位1825〜55)が即位に際して起こったデカブリストの乱を鎮圧し、反動的な内政・外交を行った。

 ニコライ1世はヨーロッパの革命がロシアに及ぶのを恐れ、七月革命の影響のもとで起こったポーランドの反乱を鎮圧し(1831)、さらに二月革命・三月革命の影響のもとで起こったハンガリーの独立運動を鎮圧する(1849)など「ヨーロッパの憲兵」の役割を果たし、メッテルニヒの失脚後はヨーロッパの反動の中心人物となった。

 その一方で領土の拡大に努め、特に黒海から地中海に進出する南下政策を進め、東方問題に介入してトルコを圧迫し、クリミア戦争(1853〜56)を引き起こしたがイギリス・フランスの介入で敗れ、失意のうちに急死した。

 クリミア戦争中に即位したアレクサンドル2世(1818〜81、位1855〜81)はクリミア戦争を収拾したが、クリミア戦争の敗北はロシアに大きな衝撃を与えた。

 クリミア戦争の敗北によってロシアの後進性・近代化の遅れを痛感し、改革の必要性をさとったアレクサンドル2世は、「下からの改革」を恐れ、「下から農民が解放するのを待つよりは上から農奴制を廃止した方がよい」と考え、「上からの改革」にふみきり、1861年3月に「農奴解放令」を発布した。

 当時、売買の対象にもされ、人口の3分の1以上を占めていたロシアの農奴は、「農奴解放令」によって人格的自由と土地の所有が認められた。しかし、農地の分与は有償で、地主に2カ年以内に買戻金を納めなければならず、それが不可能な農民には政府が代わって地主に買戻金を支払い、農民は49カ年賦でその債務を政府に返すことになった。しかも土地は私有地にはならずミール(農村共同体)の共有地となり、ミールがその共同利用や買戻金の返還などに責任を持った。

 このようにロシアの農奴解放は旧地主本位で不徹底なものであったので、自作農も出現したが、その一方で多くの土地を失う農民が現れ、彼らは離村して賃金労働者になった。 しかし、このことがロシア資本主義発達の出発点ともなった。

 農奴解放令に始まるアレクサンドル2世の自由主義改革はポーランド反乱(1863.1〜64.5)の勃発によって一時中断された。

 アレクサンドル2世はポーランド人の不満を抑えるためにポーランドにも自由主義的改革を及ぼそうとしたが、独立運動の急進派は完全独立を目ざして1861年に反乱を起こした。ポーランドの保守派政府は徴兵制をしいて、青年特に学生を軍隊に入れて反乱を防ごうとしたが、これがきっかけとなって1863年1月に大規模な反乱が起こり、18ヶ月にわたってロシア軍・政府軍と戦った。

 全ヨーロッパの自由主義者がポーランドの反乱を支援し、特にイギリス・フランスの労働者の支援運動が第1インターナショナル(国際労働者協会)創立の契機となった。

 しかし、ポーランド反乱は、自国への革命の波及を恐れるビスマルクの支持と協力を得たロシア軍によって1864年5月までには鎮圧され、数千人が死刑・シベリア流刑に処せられ、ポーランドはロシアの一地方に編入されてしまった。

 アレクサンドル2世は、ポーランドの反乱鎮圧後、ゼムストヴォ(地方議会)の創設(1864)や裁判制度の改革(1864)などの改革を行ったが、その後次第に反動化し、専制政治を強行した。

 アレクサンドル2世の反動化が進む中で、1870年代以後インテリゲンツィア(知識人)や学生などを中心とするナロードニキ(人民主義者)の運動がさかんとなった。 

 ロシアはミール(農村共同体)を基礎として西欧とは異なる独自のコースで社会主義に到達できると考えた革命的知識人や学生らは、「ヴ=ナロード(人民の中へ)」を合い言葉にしたのでナロードニキと呼ばれた。

 彼らは、医師・看護婦・教員などになって農村へ入り、農民を啓蒙して革命を起こそうとした。しかし、生活をしていくことが精一杯という貧しく・文字も読めない農民にはナロードニキの説く革命理論は全く理解できず関心も示さなかった。この農民の無関心と官憲による激しい弾圧によってナロードニキの運動は挫折・分裂した。

 絶望した人々の間に、ニヒリズム(虚無主義、いっさいの権威と価値・国家や社会秩序を否定する思想)が広まり、彼らの中にはテロリズムによって皇帝や政府高官を暗殺することによって専制政治を打倒しようとする一派が現れ、数度の失敗の後に、1881年3月に皇帝アレクサンドリア2世を暗殺した。

 この間、アレクサンドリア2世は対外的には、清朝とアイグン条約(1858)や北京条約(1860)を結んで東方で領土を拡大し、またバルカン半島へ進出をはかって露土戦争(ロシア=トルコ戦争、1877〜78)を引き起こした。




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