『はらはらと散る』

 

「卒業式と言えば?」

 いつもよりほんの少し遅めの時刻に、普段とは違う空気を感じる。教科書やノートが詰まった鞄の代わりに、中身がほとんど入っていないナップサックを背負って登校するのも新鮮だ。

隣を歩く友達が、ふと思いついたように聞いてきた。彼女の顔の横で揺れている、校則にのっとった三つ編みにも今朝は気合いが入っていて一分の隙もない。

「う〜ん、紅白饅頭? あ〜、今回はどっちを食べようかな。迷うよね」

「……」

 ジト目を向けられ、私は慌てて「じゃなくって、……さ、桜!」と訂正した。確かにこんな目出度い日にまで食い気を発揮していたら、キツイ視線を浴びせられても文句は言えない。

 そんな私も、先週の日曜日に髪の毛を整えて貰ったおかげで綺麗なおかっぱ頭だ。前も後ろも物さしで測ったかのように毛先が揃っている。

「どした?」

「……なんでもない」

 実はちょっと切ない。こんなに切って貰うんじゃなかった。何が「卒業だから一直線」だ。あの美容院のおばさんの頭は戦後でストップしてるに違いない。

 そんなしょうもない愚痴で一人落ち込んでいる私の心中など察することもなく、友達は指先をずばっと私に突きつけて言った。

「っていうかさ、卒業式は桜! なんて嘘だよ。騙されてるって」

「何が?」

 ちょうど学校そばの公園へ差し掛かっていた。

 人を指さす失礼さに声を出せずにいる間にも、友達の指が流れる。示す先を目で追うと、そこには冬に葉が落ちて、未だ花開く素振りのない桜並木。春先には見事に咲き誇り、行き交う人の目を楽しませてくれるそれも、三月半ばでは淋しいことこの上ないのが現実だ。

「まぁ、確かに桜の花が満開の卒業式なんて夢のまた夢だね」

「でしょ。でもって入学式には下手すると散ってるんだよ。これってイジメじゃない?」

「それは言い過ぎ……でもないか。考えてみたら、卒業式=桜って、刷り込まれたイメージに過ぎないのかも」

 お、我ながら難しいことを言ったぞ。何事も人の三倍かかる私も、この三年間で少しは成長出来たという証拠かもしれない。

「そりゃ、そうでしょ」

「え、当たり前?」

「当たり前」

 あっさりと肯定され、私は重みを孕んだ曇り空を見上げた。

 登校時からすでに泣きそうな私を見て、友達が不敵に笑った。歩みを早めて振り返る。

「今日はばっちり泣かせるよ!」

「泣かないよ〜。写真撮るんだもん」

「だからに決まってるじゃない」

「意地悪っ」

 上り坂の向こうには、もう二度とくぐることがない可能性だって捨てきれない校門が姿を現している。その先には二度と入らないかも知れない教室があって、もう二度と会えないかもしれない同級生達が会話を交わしている。

「……でも、泣いちゃうんだろうな」

 隣を歩く、この友達の答辞で。


★後書き★
 卒業式に出席したら書きたくなった突発短編です。
 名前さえない二人の、とりとめのない会話が書きたかったのですが、うまく表現出来ているでしょうか。
 私は社会人で、もう卒業式の主役になることは一生ないんだなぁという感慨も込めつつ……。
 
 リンク話を書いてみました。→『ぽとりと落つる』
 こちらは若干暗めのお話ですので、苦手な方はご注意下さい。
 
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