劇団EXILE レッドクリフー戦ー ネタバレ感想 | ||
![]() 赤壁で炎に包まれた、手負いの曹操。 手前の子供は阿瞞くんです。 |
さる2011年8月22日、東京青山劇場に劇団EXILE公演 「レッドクリフ-戦-」を観てきました。MAKIDAIさんが主役の曹操を演じた三国志のお芝居です。 公式HP http://www.gekidan-exile.com/redcliff/ これが何と、予想をはるかに上回る正史ベースの、曹操ファンのツボを突きまくったお話だったのです……! いやあ、興奮しました。 興奮した勢いでイラスト3点描いちゃいました。 全体としては、曹操の幼少期(阿瞞時代)から、赤壁の敗戦までのダイジェスト。 正史+曹操孟徳正伝+蒼天航路 といった印象です。 MAKIDAI曹操さまは、青い戦袍に銀色の鎧、髪はハーフアップ。 曹操の精神性にスポットを当てた物語のため、苦悩多きシリアスな人物像になっています。 無双6や北方謙三版の曹操さまと似ているかな? コンプレックスと燃える怒りをその胸に抱えつつ、人のそしりを恐れず、己の信じる正しき道をひた進む、孤高の男。 オープニングは赤壁の大火。炎は本物で、のっけから迫力です。 一転舞台は静まり、曹操と阿瞞(阿瞞役は女の子が演じています)が隣り合って座り、過去の自分との対話がはじまります。 そこから時は遡り、宦官の孫と周囲から蔑まれて育った幼少時代が語られていきます。 「オレの生は、激しい怒りと共にはじまった――」 宦官の孫と皆から嘲笑され、白眼視される幼い阿瞞。 賄賂と悪行にまみれた父や周囲の大人たち。 しかも阿瞞は家庭事情から母に捨てられた設定(白井恵理子さんの短編漫画「火蛾の楼閣」にもあった設定ですね) 母性に飢えつつ、阿瞞は自分は正しくあろうと誓います。 「母上は、僕を捨てて行ったんだ……」 |
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青年になった曹操(MAKIDAI曹
操)は、惇や淵と任侠気取りの勝手ほうだい。 夏侯惇がかっこいいのです! 登場時はもちろん両目健在ですが、隻眼になってからは黒布の眼帯で、曹操とは無双的なタメグチ。曹操の最も傍にいて支えてくれる温かな存在は、ナットクの惇像でした。 そしてこの舞台でわたしが最も大喜びしたのが、袁紹の扱いです。 曹操孟徳正伝なみに、 袁紹×曹操だったのです!! 袁紹、登場するなり 「曹操、そんな奴らとはいい加減付き合うな」 と惇たちから曹操を引き離し、しかも曹操まんざらでもなし。 「宦官の孫と妾の子で天下取ろうぜ!」 ふざけあうように、互いの拳をあわせます。 曹操は仕官し、極端な正義漢、悪を正す鬼北部尉になります。この辺り蒼天航路の影響が強く見られました。 以降、ほぼ史実通り。ベン水の敗戦、矢が刺さっても進もうとする曹操に「オレはおまえさえ生きてればそれでいいんだ!」と叫び肩を担ぐ惇兄がいたく萌えでした。 |
![]() 青年期の袁紹(左)曹操(中央)夏侯惇(右) 本当は惇はまだ両目健在です。 |
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曹操は、「弱き者のための天下」 虐げられた弱者の声が届く、平和な世の中を作ろうと心に誓います。 そんな曹操の前に、荀イクが現れます。 荀イクは袁紹の参謀として登場します。弱き者(マイノリティ)の代表的役割なのでしょうか、曹操に性同一性障害をカミングアウトします。 偏見のない曹操の志に共感し袁紹に殴られつつも曹操のもとへ。 ちなみに荀イクは物語を俯瞰する語部の役割。女の心は隠しているので女々しいわけではない、美しい士大夫っぽかったですね。 憤る袁紹は曹操を指差し「曹操おまえを使えるのはオレひとりだ……!」と叫びます。(いやあ、萌える) 劉備は「おいら皇帝になるんでいっ民の笑顔が見たいのさ」てな任侠ヤロウで、蒼天航路タイプと言えましょう。 ちなみに、反董卓で華雄を討ち取ったのが演義のように関羽ではなく、孫堅になっていました。これは史実をもとにしてるからですが、何ともニクイではありませんか。 青州黄巾賊130万と対峙する曹操。この辺りマジで正史! 何と鮑信戦死のエピまで描かれるのです!!! 曹操は和睦の書状を手にたった独りで黄巾賊たちのもとへ。元は弱き民、黄巾賊。その赤子を抱き上げ曹操は彼らの降伏を受け入れ、青州兵を手にすることとなります。 青州兵の重要性が、しっかりと描かれます。 次、徐州。父殺害に怒った曹操は徐州に侵攻、青州兵に民を殺戮させます。これに劉備は戸惑います。「曹操さんあんた変っちまった……」徐州をとる劉備。曹操に失望した陳宮の謀反と、呂布の侵攻(史実通りですハイ) 青州兵のために略奪をゆるした曹操の思惑が語られ、何かが狂いはじめる……。 |
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![]() 少年献帝と曹操。曹操が手に持っている光の玉は 「社」と「稷」を表しています。 |
屯田制をはじめ、天子(献帝)を許都に奉戴した曹操は、無邪気に慕ってくる少年献帝と会話をかわします。 ここで中国史において非常に重要な社稷(しゃしょく)ということが語られます。 ちょっとビックリしましたよ。三国志マニア向けのものならともかく、三国志知らないEXILEのファン層が多いことが見込まれる演劇で、社稷という言葉が出てくるなんて……と。 「社は土地の神。稷は穀物の神。それを祀る祭壇。陛下は、社稷をお守り下さい」と曹操。 「曹操、おまえはいつか朕の社稷を壊してしまうの?」と献帝。 「そんなことはしません。私は、帝を補佐する覇王となりましょう!」 曹操は、言い切ります。まっすぐな眼差し。その言葉にいつわりは微塵も感じられません。 演出上あえてでしょうが、劉備たちの三顧の礼が、史実より繰り上がって官渡の前くらいになってました。(というか、孔明仕官の時 期ですね)この諸葛亮 孔明は象徴的。曹操の宿敵と言うよりは、対岸にいて曹操を見守る視点といった役どころです。苦悩する曹操の心を静かに見透か します。 劉備と協力して呂布を討ち取る→劉備との蜜月期→劉備の反逆 と、孔明仕官のタイミング以外は、ほぼ史実通りに物語は進んでいきます。(まるで道化のような袁術も出てきます) そして、いよいよ官渡です。 |
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官渡の前に、裏切った劉備を電撃戦法で攻撃する曹操。 曹操の姿を一目見るや、妻子も軍も義兄弟も捨ててスタコラサッサと逃げる劉備もちゃんと演じられました。ちゃんとちゃんとの劉備でしたよ〜! 劉備を蹴散らし関羽を捕虜にした曹操。 このシーンも演義のように許都から関羽の関所破り、というのではなく、官渡の砦でのお話になってます。 そこから顔良と文醜を討ち取るシーンとなるわけですが、ただ単に関羽の見せ場になりがちな延津・白馬の戦いが史実通りの巧みな陽動戦として描かれていて、曹操がまあムチャクチャかっこいいのです。 個人的にこの戦いでの曹操は武人として最高にかっこいい! と思っているので、マジ興奮しました。 曹操さま、かっこいい〜〜〜〜〜vvv そして関羽との「男の友情」を感じさせる、潔い別れ。 かつての友袁紹との決戦、官渡の戦い。 圧倒的不利な戦況下で、曹操は袁紹に戦いを挑みます。 袁紹は「あいつが本気でオレに刃向かうわけがない」とタカをくくっている様子。 「曹操おまえを使えるのはオレひとりだ……! 戻って来いオレのもとへ……!」 なんとまあ、正伝の袁紹まんまだったりします(笑) そんなこんなで、お決まりの展開で奇跡的勝利をおさめる曹操。 この後がちょっと違ってます。 わたし的に最大の萌えシーン。 袁紹を自らの手で処刑する曹操(あえて史実と違えてますね)に向けられた、いまわの際の袁紹のセリフ。 「曹操、できることならおまえの怒り、このオレがすべて受け止めてやりたかった……!」 ちょ…… ななな、これって、これって、 究極のプロポーズなんじゃ……!!!???? え、え、え、袁紹〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!! それを最期に絶命する袁紹。友であり敵である彼の残した言葉に混乱する曹操は、袁紹の屍をヒシと抱きしめ、叫びます。 「すまん袁紹……!!!」 わたし唖然。ある意味正伝を超えた……?(^^; 打ちひしがれた曹操。曹操に背を向け、舞台の奥の暗闇へと去っていく荀イク。 曹操は茫然とした表情で顔をあげ、呟きます。 「母の声が聞こえない……思い出せない……」 曹操の世の中への怒りは失われた母性への愛と表裏一体だったのです。 母の愛を見失った曹操、それでももはや突き進むしか道はありません。 決して満たされることのない飢えた心を抱き、届かぬ怒りと愛にその身を焼き焦がしながら。 (曹操が人妻ばかり奪うのは、失われた母性を求めているのだ、という意味づけがされています) 劉備を追い、孫劉連合との決戦に挑み赤壁へ。 疫病が蔓延し、風向きが変り―― オープニングのシーンへとたどり着きます。 炎、炎、炎。船団を焼かれ傷ついた曹操は、死を覚悟します。 むしろ、死を望みます。 「オレの戦いは、劉備の天下への地ならしに過ぎなかったのか……? それが天の意なのか……?」 もう立ち上がることもできない曹操の耳に、惇の声が届きます。 「それは違う! もしも天の意に沿う者にしか道がないというのなら、天の見えない凡人の努力は全て無駄ということになるではないか。おまえはまだ生きているのだから、生き続けなければならないんだ……!」 敵の戟が曹操の頭上に振り下ろされ、間一髪で関羽がその刃を跳ね返します。 「行きなされ、曹操殿。わしは兄者の天下を見たいが、曹操殿の天下もまた見てみたい」 ここに物語は最高潮を迎え、まるでTV版エヴァの最終回のように、曹操の精神に響く言葉で埋め尽くされます。 「例え負けても、あなたは素晴らしいのだ」 という力強いメッセージです。再び生きる力を得た曹操の清々しい表情とともに、フィナーレ。 舞台は幕を下ろします。 |