ユミちゃんのたからばこ


 ユミちゃんのたからばこには、王さまがひとりすんでいます。
 王さまはとても小さくて、せたけがユミちゃんの人さしゆびと同じくらいです。王さまですから、あたまには王かんをかぶっています。かみの毛はくるくるの金ぱつで、おなじ色のひげを生やしています。ビロードの赤いようふくを着ています。こしには、きらきらひかる銀の剣をつるしています。ぜんたいとしては、たいそうりっぱな王さまに見えます。
 ユミちゃんがそのたからばこをお母さんに買ってもらって、はじめてふたをあけたときから、王さまはそこにいました。
 王さまは、たからばこの底につくねんと立っていました。そして、ユミちゃんの顔を見るなり、
「わしはゆいしょある王さまじゃ。そちをけらいにしてしんぜよう」
 と言いました。
 ユミちゃんはびっくりして、たからばこのふたをしめてお母さんをよぼうとしました。でも見まちがえかもしれないと思って、もういちどふたをあけてみました。
 すると、やはりそこに王さまはいました。王さまは、おこっていました。
「わしのことを外の者に言うなんて、けしからん。おのれ、敵国の者であったか」
 そう言って、剣をぬきました。
「ちがうよ」
 ユミちゃんはあわてました。
「わかった。王さまのことはだれにもいわないよ。でも、わたしはけらいじゃなくて、ユミちゃんだからね」
「よかろう」
 王さまは、しぶしぶと剣をさやにおさめました。
 そして、「では、ユミちゃんに命じる。食事をもってまいれ」
 と言いました。
 それから、ユミちゃんと王さまとのくらしがはじまりました。
 王さまは、たいへんわがままで、そして、こわがりでした。
 へやにお母さんやほかの人が入ってくると、ぴたりとたからばこのふたをしめ、けっして出てこようとはしませんでした。
 ユミちゃんが王さまをへやの外につれだそうとすると、すぐに剣をぬいておこりだします。
「外は敵ばかりじゃ。わしはゆいしょある王さまだから、いのちをねらわれるにきまっておる」
 そう言って、たからばこの中ににげこんでしまいます。
 王さまは、ひとりではなにもできません。食事はユミちゃんが自分のごはんをこっそりもってきて食べさせてあげますし、おふろも着がえも、ユミちゃんがてつだわなければ、なにひとつまんぞくにできません。
 そのくせ、王さまはユミちゃんの前ではとてもえらそうです。せっかくもってきた食事も、「これはわしの口にあわない。チョコレートを持ってまいれ」と残すこともすくなくありません。
 王さまは、宝石がたいそう好きです。
 宝石といっても、ほんものの宝石なんかもっていませんから、ユミちゃんはガラスのビー玉やおはじきを宝石と言って王さまにあげます。すると王さまは、ほんものとのちがいなんかわからずに、いたく満足そうに、いつまでもうっとりとながめています。なん日かしてその宝石にあきると、王さまは、「そろそろつぎの宝石がほしくなってきたぞ」とものほしそうに言います。
 そうして、ユミちゃんのたからばこには、きらきらとひかるすきとおった『宝石』が、ひとつ、またひとつとふえていきました。
「ねえ、王さま。宝石もきれいだけど、外にはもっとすてきなものがたくさんあるよ。いちどくらい、いっしょに外に出てみようよ」
 ある日、おもいきってユミちゃんは王さまをさそいました。すると王さまは、とたんにきげんが悪くなり、おこりだしました。
「まだそんなことをいっておるのか。わしは小さいから、外は危険がいっぱいじゃ。外に出て敵にころされるくらいなら、一生ここにいて宝石を見ているほうが、どんなにいいかしれぬわい」
 そう言って、またたからばこの中にかくれてしまいます。
 そこで、ユミちゃんは気がつきました。王さまは、とってもとっても小さいのです。そして、力も弱いのです。ユミちゃんがその気になれば、王さまをむりやり外につれだすことくらい、わけありません。
 ユミちゃんは、王さまをつかんでもちあげると、ずんずんと歩いて、外に出ました。
「こらっ、なにをするか。やめろ、やめてくれ」
 王さまは必死の声でさけびました。
「痛い!」
 ユミちゃんは、思わず手をはなしました。
 右手にするどい痛みがはしって、見ると、人さしゆびに長いきずができて、血が流れていました。
 王さまは、ユミちゃんのゆびをきずつけると、剣をもったままにげだしました。
 陽がしずんで、空いちめんにきれいな夕やけがひろがります。
「この空を見せたかっただけなのにな」
 ユミちゃんは、泣きながら、ぽつりとつぶやきました。
 それからどんなにさがしても、王さまは見つかりませんでした。



おわり






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