却東西門行
鴻雁は塞の北に生る
乃ぞ無人の郷に在り
翅を万里の余に挙げ
行くも止まるも自から行を成す
冬の節には南の稲を食らい
春の日には復た北に翔く
田の中に転蓬有り
風に随いて遠く飄い揚がる
長に故の根と絶れ
万歳までも相当たらず
奈何せん此の征夫
安んぞ四方を去るを得ん
戎の馬は鞍を解かず
鎧と甲は傍らを離れず
冉冉として老は将に至らんとす
何れの時にか故郷に反らん
神竜は深き淵に蔵れ
猛獣は高き岡に歩む
狐は死なんとして帰って丘に首う
故郷は安んぞ忘るべけんや
□□意訳□□
渡り鳥はとりでの北に生まれたよ
そこは人なき郷だった
翼をはるか彼方にかかげ
行くも止まるも自由できれいにつらなって行くよ
冬の季節には南の稲をついばみ
春の日にはまた北を目指して天翔ける
田んぼの中によもぎが転がっていた
そいつは風に吹かれて遠く舞い上がった
もとの根と別れてしまったまま
永遠にめぐり逢うことはない
どうしようもないのは遠征に行く兵士たち
いまさら戦いをやめてこの地を去るわけにはいかないのだ
馬の鞍は片時も外せないし
鎧かぶとを脱ぐいとますらない
歳月は過ぎ 老いはもうすぐそこまで迫ってきている
いつになったら故郷に帰れるというのだ
神々しい龍は深い淵に隠れ
猛々しい獣は高い丘を歩く
狐でさえ死ぬ時は生まれた丘を向いて倒れるというのに
どうして兵士たちに故郷を忘れることができるだろう
曹操の詩には権力者の押し付けみたいなものがいっさいありません。むしろ自分の弱さをさらけ出すようなものが多いのです。それでいてくよくよした感じはな く、まるで地平線まで見渡せるような広さがあります。
出だしのかりがね(渡り鳥)たちの描写は本当に気持ちが良くていいなあと思います。
兵士を思いやって胸を痛ませる曹操のやさしさが切ないです。一兵士として語られる痛みは、同時に曹操自身のものでもあるのでしょう。
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