精列


それ生の世の初めより
造化のみわざになるものは
終るときあらざるはなし

終るときあらざるはなし
聖賢とて免るることなし
はかなき命は憂うるもせんなし
さらばいざ竜に駕して天翔けり
崑崙の居にぞ想いを馳する

崑崙の居に想いを馳すれど
めざす地はあまりに遠く
あらためて蓬莱の山に心ひかるる

蓬莱の山に心ひかるるも
周公・孔子の聖いまはなく
会稽はかくて墳の丘

会稽はかくて墳の丘
人の世を心のどけく過ごすは誰ぞ
すぐれし人は憂えずや
されど年の暮るるをいかんせん
時は過ぎ時は来るよ ああ



□□意訳□□


宇宙が生れたその日から
自然の造ったものならば
終りの来ないものはない

終りの来ないものはない
聖人も賢者も逃れることはできない
はかない命は憂えたって仕方がない
ならばさあ 竜に乗って天を駆けよう
崑崙の住まいに想いを馳せよう

崑崙の住まいに想いを馳せたけれど
めざす地はあまりに遠く竜もない私は行けそうもない
気を取り直して蓬莱の山に心魅かれる

蓬莱の山に心魅かれたけれど
周公・孔子の聖人はずっと前に死んでしまった
聖なる山もいまや墳の丘なのだ

聖なる山もいまや墳の丘なのだ
こんな人の世の中を心のどかに過ごしているきみは誰だい?
すぐれた人は憂えないって?
だけどこうしている間にも歳をとっていく私はどうすればいい……!
時は過ぎ時は来るよ ああ



『時は過ぎ時は来るよ ああ』というのが何ともいい。想い惑う気持ちをかっこつけずに素直に表している詩です。むりやり決着をつけたり否定したりせず、迷いをそのまま生け捕りに しているところが好き。心の揺れ動くさまがなんとも可愛い。やっぱり曹操の詩って、憂いながらもどこか広々として爽快なんだよね。
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