対酒
酒を前にして太平を歌わん
時に吏は門に呼ばず
王者は賢にして且つ明
宰相と股肱とは皆な忠臣にして
みな礼譲あり
民は争いせめぐこと無く
三年耕せば
九年の蓄え有り
倉の穀は満ち充ち
白髪をまじえしものは負い戴かず
めぐみを雨らすこと此の如くなれば
百穀はかくて成り
走の馬を却けて以て其の土の田に糞やる
爵は公侯伯子男
みな其の民を愛し
以て幽かなるものと明れしものとを退けつ陟しつつ
たみを子のごとく養うこと父と兄のごとき有り
礼法を犯すものは
軽重もて其の刑をわかち
路にはおちしものを拾わんとする私のひと無く
囚獄は空虚にして
冬の節には人を裁かず
老い老いしもの皆な寿を以て終るを得て
恩澤は広く草木昆虫にも及びなん
□□意訳□□
酒を呑みながら平和を謳歌しよう
兵役や税金取りの役人はやってこない
王たる者は賢明で
宰相や補佐役は忠実に職務を果たし
礼儀をわきまえている
民人たちは争いを起こさず
三年耕せば
九年もの蓄えになる
倉庫は穀物であふれ
白髪の老人に重い荷を背負わせることもない
めぐみの雨が降ったなら
そこには様々な作物が実る
もはや戦の馬はいらない その馬は田畑に肥やしをやるためにこそあれ
領主たちは
みなその民人たちを愛し
悪人を退け有能な人を重用し
我が子同様に慈しむ まるで実の父や兄のように
法律を犯すものがいたなら
正当に処罰し
道に落ちているものをネコババするような者もなく
そして牢獄には誰もいなくなった
冬の季節には人を裁かないし
誰もが天寿をまっとうできる
恩恵は広く草木や昆虫にまで及ぶのだ
曹操 の思い描いたユートピア。こんな世界を夢見ながら、曹操は戦乱の世を駆け抜けたのでした。平和な世が来れば人はおのずと善人になるという、どこか楽観的な 一面もうかがえます。こんな牧歌的な風景を乱世の奸雄が夢見ていたなんて、ちょっと意外かも? 最終的には草木や昆虫にまで思いが行く辺り、とてもこまや かで可愛いですね。
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