不思議なはなし -電源ボタン長押しでPCが再起動,原因は電源ボタンの押し方と離し方-  
 

 先月末数年ぶりにリビングの録画用PCのアップグレードを行った。
このマシンはNorthwood世代のPentium4搭載であったから,実に数世代ぶりのアップグレードである。

 Intel製の選択肢も悪くなかったのだが,Intel製で「ついでにリビングでもPCゲーム」を考えると,グラフィクスアクセラレータの搭載が必須になってしまうが,電源はPentium4世代のACアダプタタイプを継続して使用するつもりであり,この電源にはPCI-Express 6pinなどという気の利いたコネクタは存在していない上に総電力量も少ないので,今回はRADENO 4200と同等のグラフィクス機能をチップセットに内蔵するAMDの785G搭載マザーを選んでみた。選択したのはASUSのM4A785TD-M EVOである。
何気に安直にASUSUを選んでいる自分が嫌だったりするが,このクラスのマシンを組むのが実に数年ぶりであること,およびこのクラスにはSupermicroやTyan製が存在しないこと,存在しても妙に機能がマニアック(常時稼働サーバーとしての機能に特化していてネットワーク機能が非常に充実している半面,オンボードサウンドが無い等)でいわゆる”普通の使い方”に向かなかったりすることなどを理由として,とりあえずの安全パイとしてASUSを選択したわけである。

 しかも,メモリまでASUSのサイトに掲載のあるGeil製を選択しており,動くのが当たり前すぎて自作の醍醐味を全て失ってしまった方向の構成である。こうして安直に「安全な構成」に逃げるようになると,いよいよ自分も歳をとったのだと実感する。まあ,リビングの録画マシンは即日従前と同様に作動してくれないと困るので,その点ではよい判断をしたと言えなくもないが…。それでも,ためらいなくASUSを選んでしまうというのは我ながらやはり情けない。

 閑話休題。

 さて,ASUSを選んでどうのという余計な話は脇に置いておいて今回の本題である。上記のような事情のため今回のマシンは実にあっさり組上がり(その間ひと悶着あったといえばあったが),OSのインストールまで速やかに終了したが,1つだけ引っかかる点が残った。というのは,本稿のタイトルにもあるとおり,電源ボタンの長押しで通常なら強制終了するはずが,不思議なことに再起動してしまうのである。

 この症状は,マザー上の,俗にフロントパネルピンヘッダと呼ばれる部分の電源スイッチの接続(極性)やリセットと電源スイッチのつなぎ間違い,およびPower LEDやHDD LEDの極性違いで起こるものである。当初は私も「電源スイッチの極性だろう」とあたりをつけたが,マザーのマニュアルを見ても,シルクを読んでもどうも間違いはないようであった。リセットや各種LEDの接続も確認したが問題ない。にもかかわらず電源長押しで強制終了しようとすると再起動する。Windowsからのシャットダウンには問題ないので無視してもよいようなことであったが,原因がなくこの症状が出るときには電源の不具合か電源との相性,およびBISOの電源管理の不正という根の深いやっかいな問題をはらんでいることがあるため,試行錯誤してみたわけである。

 ところで,電源スイッチの極性というと「???」と思われるむきもあるかもしれない。マザーメーカーによっては電源スイッチのピンヘッダには+を指示していなかったり,1番ピンを明示的に示していなかったりすることも多く,その実どちら向きにつないでもLEDのピンヘッダと違い正常に動作する。それもそのはず,PCの電源スイッチは,稼働中常に導通しているわけではなく,起動時のみ一瞬導通させればよい仕組みになっているので導通さえすればよく正直なところ極性はあまり関係ない。しかしながら,厳密な話をすると一応極性はある(まったくの余談だが家庭用コンセントにも極性がある。逆にしても全く問題はない,というか普段気にもしないが)。といってもLED等の極性と別段話がことなるわけではなく,+のピン(多くの場合は1番ピン)にスイッチから伸びるリード線の+側(多くの場合黒色でない方)を接続すればよいわけであるが,ごくまれに極性を間違えると電源ボタン長押しで再起動となることがある。

 これが原因であれば話は早かったのだが,残念ながら今回は違った。一瞬「面倒なことになった」と一抹の不安を抱えつつ試行錯誤を繰り返したが,実は答えはきわめて簡単であった。ここまで話を引っ張っておいて,こんなことを言うのも非常に気が引けるが,簡単に言うと電源ボタンを押し方が問題であった。今使っているケースの電源ボタンは押した感じが結構深く,「ボチッ」と押し込むような感じのあるスイッチなのだが,スイッチを長押ししてPCの電源が切れた瞬間にスイッチを話すと,「カチッ」とスイッチボタンが押し込まれた状態から元に戻るときに再度通電してしまうようなのだ。その証拠に,完全に電源が切れてしまうまでずっとスイッチボタンを押しこんだままにしておき,電源が完全に切れてからゆっくりとボタンから指を離し,元の位置に戻すと再起動しない。

 同じ操作を何度繰り返しても,完全に電源が落ちてからゆっくりスイッチから指を離せば必ず電源は落ち,再起動しないのでスイッチの離し方に原因があることは間違いなさそうである。おそらく,このスイッチは押し込まれた状態から元の位置にもどるとき一瞬物理的に導通する部分があり,マザーからスイッチのリード線部分への通電が完全に途切れるまでにその導通部分が接触するとスイッチONになったのと同じ状態になってしまい,結果再起動するのであろう。逆に,マザーからスイッチへのリード線部分への通電が完全に途切れてしまえば,スイッチが戻るときの微弱な接触では起動に十分なほどには導通せず,正常に電源OFFできるのであろうと理解できる。

 PCをいじっていると,今回のように面白い症状にでくわすことがある。原因がわかってしまえば笑い話だが,わかるまでには骨が折れることも多い。以前にも,ある特定のドライババージョンのもとでだけ,あるフォントがインストールできず,無理やりインストールしても使えないという正体不明な症状に遭遇したことがある。そのフォントは私の仕事には不可欠のものであり,当初は途方にくれたが,以前に全く同じ構成・OSでそのフォントを使えており,直近に加えた変更がグラフィクス・アクセラレーターのドライバの更新であったため,そのドライバを更に新しいものに更新することで,そのときは幸運にも解決をみることができた。フォントが使えない原因がグラフィクス・アクセラレータのドライバにあるとは正直夢にも思わなかった。(よくよく考えれば,フォントのベクターラインを描画するのはグラフィクス・アクセラレータとそのドライバであるから,両者のあいだには実はそこそこ密接な関係があるわけだが…。)

 こうした経験から言えることは,不具合には必ずなにかしら原因があるということである。今回の件もそれらしく言えば,「電源スイッチの接地タイミングとマザーボードのスイッチピンヘッダの導通タイミングとの誤差が原因の相性問題で誤動作した」と言えなくもない。PCを自作することの醍醐味の一つに,このトラブルの克服ということがあるが,昨今は基礎技術・基本性能の向上からトラブルに遭遇する機会そのものがずいぶん減ってきた。「動くべきものが動くべき有様で当然に動く」というのは歓迎すべきことであるが,我々ユーザーが自身のスキルを向上し,維持するという点ではたまにトラブルに遭遇するのもそれほど悪くはないのかもしれない。そんなことを思う2月の末であった。

  2010.03.01   
 



   

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